「江戸小唄」の祖といわれる清元お葉が十六歳の時作曲した曲です。
夜桜や 浮かれ鳥がまいまいと 花の木陰に誰やらいるわいな
とぼけしゃんすな 芽吹き柳が風にもまれて エ〜エ〜、
ふうわりふうわりふうわりと、 オヽサそおじゃいな そおじゃいな
解説−
ここでの夜桜は、吉原仲の町往来の中ほどに植えられた桜のことであり、「浮かれ鳥」は、吉原の常連客を鳥や雀になぞらえたもので「まいまい」は浮かれ男が舞い舞い歩くのと、毎夜毎夜をかけた掛けことばとなっています。小唄にはこうした掛けことばが、随所に使われて、その洒脱な味に一役買っています。
土手に飛交う 蛍の虫は 追われ追われて ちらり ちらちら
そっと押えた団扇の手管 ええしょんがえ
解説−
夏の夜、団扇片手に蛍狩りに出かけるのは江戸時代の行事の一つであった。この歌詞では「そっと押えた団扇の手管」がその眼目であるが、これは初心な娘が闇を幸い、蛍を押える振りをしてわざと団扇で思う人の手を押えるところで、口で言われぬ思いを団扇に言わせるという、まことに心憎い作品です。
虫の音を止めて(で)うれしき庭伝い 開くる柴折戸桐一葉
ええ憎らしい秋の空 月はしょんぼり雲隠れ
解説−
この小唄の主人公は芸妓と思われます。芸妓が遅れて待ち合わせの場所に来ると、相手の姿が見えない。きっと腹を立てて帰ってしまったのだろう。月も雲に隠れてしまっているし、エエ憎らしい男心と秋の空「月はしょんぼり」はしょんぼり取り残された自分を指し「ええ憎らしい」は「桐一葉」と「秋の空」と「男心」に掛けた、掛ことばです。
初雪に 降りこめられて向島 二人が仲に置炬燵
酒の機嫌の爪弾きは 好いた同士の差向かい
嘘が浮世か浮世が実か まことくらべの 胸と胸
解説−
この小唄は、明治二十年頃の小唄完成期に作られたもので、向島情緒を遺憾なく描写しています。季節はずれの向島水神の森の奥の、小座敷で落ち合った客と芸妓が、折からの初雪に、このまま降り続けて欲しいとの思いで、置炬燵で盃のやり取りの中、流行の小唄を爪弾きで唄っている様子が、情緒的に描かれている小唄の代表曲です。